子育てサイエンス?カフェ 報告
子育てサイエンス?カフェ 報告
第19回子育てサイエンス?カフェ 報告
子どもの話に耳を傾ける
—子どもに自信をもって関わるために、臨床心理学の立場から言えること—
日時:2024年7月27日(土)10:30~12:00
開催:オンライン
講師:堀江桂吾
(人間社会学部心理学科准教授/心理相談室室長)
「子どもの話を聴くことが大切」という言葉はよく耳にしますし、異論がある人は少ないと思います。しかし、「ただ聴いているだけでいいの?」「アドバイスしたり、ダメって言ってはいけないの?」など、いろいろな疑問を感じる人もいると思います。
「子どもの話を聴く」上で重要なのは、子どもの気持ちになって話を聴くことです。もともと赤ん坊は、生まれる前は当然ですが、生まれてからもしばらく一人では生きられません。常に親や養育者が「抱っこ」して、「お腹減ったのかな?」「おむつが気持ち悪いのかな」など赤ん坊の気持ちを想像して、お世話をする必要があります。こうした関わりを、専門用語では子どもへの「同一化」と言います。つまり、「ただ聴く」だけではなく、子どもに同一化して話を聴くことが大切だと言えます。このような「同一化」に基づくケアをD.W.Winnicottという小児科医?精神分析家は「抱えることholding」と名付けました。Winnicottは、十分「抱えられた」体験が無い人は、「自分で自分を抱える必要がある」と述べています。そうした人にとっては、「子どもの話に耳を傾ける」ことが難しくて当然です。そうした場合は,大人であっても,まず自分が誰かに「心ゆくまで話を聴いてもらう」ことが不可欠と言えるでしょう。
もう一つ、「子どもにダメと言ってはいけないの?」という疑問について、道徳と倫理、という概念を例に挙げてお話ししました。美学者の伊藤亜紗は、道徳は「普遍的な善」、倫理は「具体的な状況における『善』とは何かについて悩むこと」と述べています。私たち大人は、子どもを前にして、「ダメ」という言葉で「道徳的に何が正しいか」を教えることが大切です。ただ、「道徳的にはうそをついてはいけない。けれど、身を守るためにはうそをつくことも必要な場面がある」ように、具体的な状況では、道徳が必ずしも通じない場合があります。大人は、道徳的な正しさを振りかざしてしまいがちですが、子どもの置かれた具体的な状況を想像し、一緒に悩むことが必要です。
つまり、「子どもの話に耳を傾ける」上でも、「子どもにダメというべきかどうか倫理的に考える」ためにも、大人は「思い悩むこと」から逃れられません。しかし、一人で思い悩むのはあまりにも辛いものです。「子どもを抱える人」を「抱える人」、それは家族だったり、友人、ご近所さん、子どもの学校のスクールカウンセラーかもしれません。本学、社会連携教育センターは、分室として心理相談室を備えています。心理相談室が、皆さんを「抱える」場としてお役に立てれば本望です。
(人間社会学部心理学科?心理相談室室長 堀江桂吾)
日本女子大学 心理相談室
私たちは、家庭や学校、職場、地域などでいろいろな問題と向き合いながら生活しています。
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